Hi Betty!

エコロジーなバレンタイン #1

意外と文量増えたので、twitterから持ってきました
初めての学パロ
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リボンのかかった包みの中には、昨晩丹精を込めて作ったラムトリュフが入っていた。
バレンタインデーにトリュフだなんて、ありきたりにも程があるのは重々承知しているが、味には確かな自信があった。
普段の印象からあまり想像されることはないが、私にとってお菓子作りは得意な部類なのだ。
しかしながら、どんなに味がよくたって、口に運ぶ人間がいなければまったく意味をなさなかった。
要するに、今年もしかるべき人の元にこのリボンに巻かれた包みが渡ることはなかったということだ。
我ながら、馬鹿馬鹿しくて自分で包みを開封する気さえ起きなかった。
気持ちのやり場がなかった私は家までわざと回り道をしていた。
偶然通りかかった小さな公園の砂を沈みかかった夕日が照らしている。
私は吸い込まれるように、公園に足を踏み入れ、ゴミ箱に小さな包みを放り込もうとした。
しかし、包みがゴミ箱の底に落ちることはなかった。
私の手にあった包みは、骨張った白い手に軽々と奪い去られ、当の包みはここが居場所だとでもいうかのように彼の手のひらで佇んでいた。

「へぇ、本命かい?意外と丁寧じゃないか。」

彼はリボンの端を引っ張ると包装を解き始めた。
あれはやはり、本来渡したかった人物の手には渡らない運命だったのだ。
私はやけに納得感を覚えていた。
だから、彼の行為を止めなかったのかもしれない。

「'意外と'、だから渡せないの。たぶんね。」
「それならきっと、永遠に渡せないだろうね。」

彼は私を一瞥すると、何の気なしに箱の中のラムトリュフを口へ放り込み、指についたココアパウダーまでもしっかりと舐めとった。
なんて自由なのだろうか。
いや、私が馬鹿にされているだけなのかもしれない。
話は変わるが、私は彼の顔を知っていた。
隣のクラスのクジャだ。
周りの女の子達が、すれ違う度にうっとりとした視線で彼を追う光景は見慣れたものだった。
だが、その容姿良さとは裏腹に、彼が友達だったりと一緒に行動している姿を見たことはなかった。
本人が好んでそうしているという話さえ耳にしたことがある。
とはいえ、女の子にはよく話しかけられてはいて、それをあしらってはいないようだった。
彼の存在は、学年でもどことなく浮いていた。

「悪くないじゃないか。」
「それはどうも。おかげで、環境に優しい処分方法になったわ。」
「…まったく、情緒がないねぇ。」

誰にも食べられないよりかは、幾分かましだったのかもしれないなどと考えていれば、彼の溜息混じりな言葉が片耳から流れ込んできた。
恐らく私は、今その気になれば情緒がないのが誰なのかを的確に説明することができるだろう。

「でも、僕の方が処分しないといけないものがたくさんある。…君にあげるよ。」

クジャから手渡されたのは、山盛りになるまでチョコが詰め込まれた袋、三つだった。

「これをあげた子達が聞いたら泣くんじゃない?それに、こんなにもらっても困るのは私も一緒。」
「僕が口にするのは欲しいと思ったものだけだよ。持って帰ったって結末は同じさ。」

袋を返そうとするが、彼は頑なに受け取ろうとしなかった。

「捨てられる直前のチョコは食べるのに?」
「目の前でゴミ箱に放り込まれそうになっていたら、気にもなるだろう?もう一度言うけど、僕は欲しいものしかいらない。」
「なら最初から受け取らなければよかったじゃない。」
「受け取らなくたって、下駄箱や机に入れられてるんだ。一体、何が楽しくて下駄箱に入ったチョコを食べなきゃいけないのか、教えてもらいたいものだよ。だから、渡せないくらいなら捨てようっていう君の行動に感心はしてる。大方、やけになっただけだろうけど。」

チョコを押し付けられたのが面白くなかったので、腹いせに問い詰めたつもりだったが、いつの間にか言いくるめられていた。
確かに、彼の言い分も理解はできる。
それから、彼に友達がいない理由もだ。

「…モテるのも大変なのはわかった。それと、最後のは余計よ。」
「それはそれは、悪かったよ。とりあえず、食品廃棄を減らした僕には感謝することだね。」
「どこかの誰かさんは私の数十倍を廃棄しようとしてたけれど。」

クジャは他人事のように首を傾げると、私に向かって手を差し出した。

「途中まで持ってあげるよ。」

どうやら、袋を渡せということらしい。
私は彼の言うままに、先程受け取ったばかりの袋を手渡した。
腑に落ちないところはあるが、お礼を言うべき場面なのだろう。

「……ありがと。」

数秒の間の後、私は小さく告げた。

「何に対して、かな。」
「少なくとも、あなたに対してだと思う。」
「そうかい。」

クジャがこれ以上、このことについて深掘りすることはなかった。
結局私は彼に家まで送られていた。
道中では他愛のない話をたくさんした。
袋のチョコを一日何個ずつ減らすか、周りの女の子のバレンタインの様子、手作りのチョコがおいしくないことについて、などの浅い話だ。
私は学校では比較的無口な方なので、これほど口数多く話したのは久しぶりだったように思う。
ちなみに、私は彼が嫌がる下駄箱に入れられたチョコがどれかを知らない。
それについては、少し憎らしく思っている。
とはいっても、私は特に気にしないのだが。