Hi Betty!

MerryChristmas

「聖なる夜も磔でお出迎えだなんて、救世主様も粋な人ね。」
「この日だけはサンタクロースの格好をしてるとでも思ったかい?」

大きな木製の扉が軋んだ音を立てて閉まる。床に敷かれた赤い絨毯の上を進むクジャは、祭壇の前で足を止めた。全裸の男が磔にされた十字架の奥で、ステンドグラスに描かれた聖母が微笑みを浮かべている様子は、よく考えると不自然にも思える。聖母ともあろうお方が磔刑を目にして笑顔でいるとは、少々歪んだご趣味なのではないだろうか。無論、この配置を決めた人物がそんなことまで考えていたとは到底思えないが。

「それ、いい考えかも。たまには、服くらい着た方がいいわ。」
「…能天気で羨ましい限りだよ。ところで、こんな所に呼び出してどうするつもりだい?まさか此処で一晩を過ごすわけじゃないだろう?」
「たまには待ち合わせしてみるのもありかなと思って。教会にしたのは暖かそうだったからなんだけど、一人だとちょっと心細いかなあ…なんか気味悪いんだよね、ゴテゴテに装飾されてて。」
「それは悪かったね。」

思い返してみれば、彼の屋敷もゴテゴテの装飾だった。

「で、何をするかとかは特に決めてない。私、教会に憧れを抱きすぎてたみたい。待ち合わせも思いの外普通に終わっちゃったし…」
「君も粋な救世主様を見習った方がいいよ。まあ、こんなことだろうとは思ってたけど。」

クジャは呆れたように首を横に振ると、組んでいた腕の片方をほどき、頬杖をつく。実は待ち合わせというものに私は結構な期待をしていたのだ。一緒の家で暮らしている間柄では、わざわざ外で時間を合わせるなんてことはしない。故に今が初めての待ち合わせだったのだが、期待していたような事は起きず、一人きりの教会に若干恐怖を煽られただけとなってしまった。

「行くよ、#name#。」
「帰るの?」

クジャは私の手を引く。きちんと計画を立てなかった私がいけないが、このまま帰ってしまうのはどことなく寂しかった。

「帰りたくないんだろう?散歩でもしようか。折角、イルミネーションが綺麗だからね。」

“仕方ないね”とでもいうように、私の髪を撫でる彼の表情は先程の呆れ顔とは打って変わって柔らかかった。

「うん。私、ツリー見たい。」
「分かったよ。ただ、寒いのは覚悟しなよ。」
「寒くなったら、しがみついていい?」

クジャを見上げれば、鼻先で笑われる。

「寒くなくても、しがみつくだろう?」

彼の手を握りしめ、再び教会の扉を潜り抜ければ、予定通りに冷たい夜風が頬を刺した。