Hi Betty!

夢のような夜伽 #2

かなり修正しました。(2020/1/15)
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「やっぱり、私とじゃ駄目ですっ…」

白いシーツに花開くかのように、はだけたドレスが肌を滑り落ちた。クジャ様は私の覚束ない制止など気にも留めず、コルセットを紐解いていく。

「まだ言うのかい?僕のことしか考えるなって言ったはずだよ。」

弛められたコルセットは放られ、また一つと寝台を彩る。露になった乳房は骨の浮き出た綺麗な手に収まり、その柔らかな質感は彼に委ねられた。私については、胸の鼓動がいっそう小刻みになったのを彼に悟られまいと、平静を装い、呼吸を整えていた。

「でも…」
「嫌だっていうなら、止めてあげてもいいけれど…?」

聞かなくともわかっているだろうに。クジャ様は意地悪に細めた瞳で私を見つめながら胸元に唇を這わせた。
私はただ嫌じゃないと首を振った。

「なら、大人しくいただかれることだね。」

彼は粗野に吐き捨てると、言葉とは対照的な手つきで手の中にある胸の膨らみを撫で上げ、片方の突起を口に含んだ。

「っ……」

喉の奥から跳ね上がるように、吐息が漏れた。既に身体がおかしくなり始めていた。彼の舌先が突起を弄び、もう片方の胸が形を変える程、上手にものを考えられなくなっていく。冷静にただ早く終わることだけを考えていたいつもの行為とは全くもって感覚が違かった。

「#name#、君もそういう表情をするんだね。」

クジャ様は私の頬を包み込み自分の方を向かせると、今にもそのつんとした顎先が触れてしまいそうな距離で私の目を覗き込んだ。普段から涼しげで冷たささえも感じさせる彼の瞳は淡い照明のせいもあってか、より一層艶が増して見えた。

「そんなにまじまじと見ないでください…」
「視線を奪って離さないのは誰だい?」

語尾こそ疑問形ではあるが、クジャ様は答えなど端から聞くつもりはなかったのだろう。そのまま私の唇にほんのりと濡れた色素の薄い唇が重ねられた。絡みつく彼の舌先に弄ばれている間にも、骨張った手が腰に纏わり付いた丈の短いスカートの裾を捲し上げ、抜かりなく太股を這うので、布地の上から抑えつけた。反射的な行動だった。

「…クジャ様とだと何かが違うんです。……今まではこんな風に思ったことがないから……、だから、……少し怖いです。」
「それは僕に大好きだって言ってるのかい?」
「そういうことじゃ…!」

クジャ様は小さく笑った。それから、私の手を除けると更に太股を上り詰め、下着の上からゆっくりと秘部をなぞった。それだけで電流が走ったみたいに身体が小さく震えた。

「こんなに濡らしているのにね。」
「クジャ様っ…」
「大丈夫だよ。君のことをもっと教えて。」

クジャ様は私の耳元に唇を寄せ、優しく諭した。私が黙って俯くのを見届けると、腰回りから足先へとドレスを潜らせていった。取り払われたドレスはコルセットと同様にシーツへと放られた。

「少しもったいない気もするけど、こればかりは仕方ないね。」

今の私にはこういったドレスの使い道が今日のような日くらいしかなかった。当然、それ用に見繕っているものなので、露出度が高かったり、身体のラインがわかるデザインのものが多い。クジャ様が放り投げたばかりのものはオーガンジーのふんわりとした太股の三分の一くらいまでしか丈のない白色のドレスだった。

「それがそのドレスの役割みたいなものですから…」
「 #name#、有効な口説き文句ってやつを教えてあげるよ。…こういう時は僕のためにおめかしをしてきたって言っておくんだ。たとえ嘘でもね。」

どうやら私の発言は淡白すぎるらしかった。とはいえ、ドレスに対して本当にそう思っているかと言われたらけしてそうではなかった。

「……下ろし立てです、それ。」
「ん?」
「自分でこういうドレスを買いに行ったのは初めてです。いつもはこんなこと、しませんから。…言いたいこと、わかっていただけますか?」

このドレスは昨日アレクサンドリアの城下町で購入したものだった。普段ならブラネ様が用意したドレスがあるので、それを着用しているのだが、今回はどうしても使いたくなかった。デザイン云々の話ではなく、他で着用したものを着てクジャ様を訪ねるのが、どうにも気が引けたというのが正しい言い方になる。昨日は衣類を選ぶのに、人生で一番時間をかけたといっても過言ではなかった。何着も見ては比べ、化粧品だってドレスに合うものをいくつか買い足した。我ながらどうかしてしまったとしか思えなかった。

「……悪かったね。」
「いいえ。…私、何してるんでしょうね。やっぱり、こういのはあんまり似合わないし、クジャ様と一緒にいれるとも限らなかったのに。」
「そうかい?」

クジャ様はショーツに手をかけた。続いてガーターベルトとストッキングを一つ一つ丁寧に脱がせていく。そして、一糸纏わぬ姿となった私に、綺麗だねと一言告げた。複雑な気持ちだった。この身体がこれまで何をされてきたのか。彼だって、想像すればわかるはずだというのに、どこからそんな言葉が出てくるのだろう。シーツに転がされた私に寄り添うようにしてクジャ様も寝転んだ。

「困ったね、君のことが愛おしくて仕方ないんだ。」

重なり合った膝が引き離され、クジャ様の指先が割れ目を通った。そうであればよかったのだ。そうであれば、こんなにも鋭く行き場のない感情を感じることもなかったというのに。次第に、溢れ出る愛液を軽く埋められた指が絡めとり、小さく水音を立て始める。

「#name#、ちゃんとこっちを見て。」

彼の指がゆっくりと私の中へと沈められていく。私が感じている質感をクジャ様も感じているのだ。私が思っていることだって、もう既にクジャ様に伝わってしまっているのかもしれない。

「っあ……、ん……、ゃあ……」

シーツにしっかりとつけた頬を掬うようにして、クジャ様は私の顔を自分へと向けさせた。

「こんなに蕩けた顔をして…」

クジャ様の声が耳元に響く。その間も私の中は彼の細長い指が占有している。
ずっとそうであってほしかった。ずっと彼だけならさぞ幸せだというのに。クジャ様が私を掻き乱せば掻き乱すほど、陰りの部分をありありとわからせてくれた。

「ん…、クジャ…、様…….、クジャ様以外……、知りたくなかった………あっ!」
「ねぇ、余計なことを考えただろう?」

突然、蕾を弾かれ身体が仰け反った。身体を走り抜ける痺れに、要らぬことを口走ったのだということを充分すぎるくらいに実感した。

「さっきまで触ってなかったのに、もう硬くなってる。」
「…だめ、…クジャ様っ。」
「どう見たって、駄目そうには見えないけれど。」

彼の濡れた指先に執拗に撫で回された蕾はいとも容易く籠絡されてしまったのだろう。とうに振り幅を超えた快楽を受容し、私の判断能力さえも狂わせようとしていた。逃れようと何度も身を捩らせたが、彼にしっかりと捕らえられており、全く意味を為さなかった。そんな私を知ってか否か、クジャ様は追い討ちをかけるかのように私の耳輪に舌を這わせた。

「あっ…、クジャ様…まって…、ほんとにだめなの…」

クジャ様が私の制止を聞くことはなかった。
頭がぼんやりとして、次第に呼吸が浅くなっていく。

ー苦しいのに、でもすごく…

「お願い…、クジャ様…、っあぁ…!」

上り詰めた何かが弾けた拍子に頭が真っ白になった。その直後に身体がびくびくと痙攣し、全身の力が抜け落ちた。私は何が起こったのか整理がつかないまま、大きなものが過ぎ去った喪失感に圧倒されていた。

「僕のことだけ考えてればいいって言ったはずだよ。」
「そういうのはずるいです…」
「ずるくなんてないさ。今、一緒にいるのは僕だよ。それ以外の男のことなんか思い浮かべられたくないんだけれど。」

クジャ様はすべてお見通しのようだった。

「…いい思い出なんかじゃありません。」
「知ってる。」

吐息混じりの優しい声で言うと、私の唇を塞いだ。口付けの間に聞こえる金属のぶつかり合う音から起きている事象を想像するのは難しいことではなかった。彼に誘導され、私の手は彼自身の元へと添えられた。手の中にある熱を持ったそれは反り返り、小さく脈を打っている。

「もうこんなに…」
「誰かさんのせいでね。」

愛おしい熱量だった。クジャ様も同じ気持ちなのかと錯覚してしまいそうにもなった。私は彼のものをゆるゆると扱きながら、口を寄せようと体勢を変えるが止められた。

「いいよ、もうそんなに我慢できそうにない。」

クジャ様は残りの衣服を脱いでしまうと、白いシーツに私の背中を押し付けるように組敷き、膝裏に手をかけた。

「…あんまり見ないでください。」
「僕のはしっかり見ておいて、かい?」

片足を固定され、視線を遮るものがなくなったそこはしっかりと彼の目に映り込んでいるのだろう。たったそれだけなのに、じんじんとした疼きのような感覚のせいで原子の組み合わせが綻び、分解してしまうのではないかとさえ思えた。にも関わらず、彼はわざとらしいくらいに丁寧にそこを指先でなぞると、身長に大してやけに小振りな頭部を私の両腿の間に埋め、一見女性らしくも見える流線的な顔立ちには似つかわしくない、みだりがわしい音を鳴らした。

「っんん…、そんなとこ、汚っ……」

彼から短く返答があったが、振動として体内に吸い込まれ、適切な音で私に伝わることはなかった。

「#name#、君のことが欲しくてたまらないんだ。」
「クジャ様…」

入り口に宛がわれた彼を私の身体は拒むことなくゆっくりと受け入れていく。彼の形状、質感、熱量、脈動、今これらを肌身で感じているのは私だけだ。こんなにも、胸の奥から満たされていられるのも、求愛にも似た優美な視線を留めていられるのも今だけなのだ。

「クジャ様、恐いの。私、クジャ様のこと…」
「ふふ、それはそれは随分と可愛らしい誘い文句だよ。」

流されてはいけなかった。クジャ様の思うままに手懐けられてしまえば、後が苦しいのだ。

「そんな………あぁっ。」
「ここがいいのかい?」

私がそんなことを考えているのを知ってか否か、クジャ様は奥の方まで遺漏なく私の反応を試す。

「あっ、クジャ様、また…、ぁんっ、また来ちゃう…」
「ねぇ、#name#。ご満悦なのはわかるけれど、まだ早いよ。」

彼は自身を押しつけたまま、ぴたりと動きを止めた。

「クジャ様…?」
「ちゃんと言ってもらわないとね。僕は君のことが愛おしいといつ何時も伝えてる。君の言葉が聞きたいんだ。」

私の骨盤の辺りから上り詰める彼の手は、胸元を確かめるように滑り、最終的に下顎へと落ち着いた。その直後に、彼の長い髪が私の肩をくすぐるのと、彼の唇が今にも触れそうな距離まで近づくのは、ほぼ同じタイミングだった。私は逃げられないように追い込まれているのだ。
その間も私の中は先程の余韻が残ったままで、去ってしまった刺激を惜しむかのように顫動を繰り返していた。こんなに深いところまで彼を咥え込んでいるのだから、クジャ様にだって気付かれてしまっているのだろう。そう考えた途端にぎゅっと中が引き締まるのを感じた。彼は依然としてこちらを試すように見つめている。
当然のことながら、私の思考が平静だとは言えなかった。

「…できません。言ってしまったらきっと…」

馬鹿なことをしているだなんてわかりきっていた。たった一言を口にするだけで、きっと心まで彼と繋がることができるというのに。
そうしたら、とろけるような口付けも、重なり合う肌の温かさも、身体の芯から伝わる快楽だって、全て、その瞬間に二人の間で真実になるのだ。
しかし、彼との繋がりを具現化させるわけにはいかなかった。
もしそんなことを知ったら、私の中の均衡が崩れ、これまで通りに生きていけなくなってしまうような気がしてならなかった。

「まったく…怖がりな子だね。恋しくなったら、また僕のところに来ればいい。これが最後にはならないさ。」

彼は私の頭を撫で、頬を寄せるようにして抱きしめた。

「でも…」
「大丈夫だよ。」

彼の声で心に巣食うわだかまりが溶け出して、浄化されていくのを感じた。
クジャ様を信じてみたくなったのだ。

-クジャ様、私…

意を決して絞り出した私の声は食器の割れるような音で掻き消された。

***

目を開ければ、テーブルの上に転がったティーポットから褐色の液体が溢れ出し、カップは床に破片となって散らばっていた。クジャ様…いや、クジャはといえばド派手な床の惨劇を見下ろし、顔を歪めているところだった。

「すごい有様…」
「困ったことにね。」
「箒と塵取り、持ってきて。」

まだ眠気の残る眼を擦りながら、私は彼に掃除用具を持って来るよう指示した。彼は多少なりとも罪悪感はあるようで、素直に応じた。私は横になっていたソファから身を起こすと、テーブルの上の布巾を手に取り、溢れた紅茶を拭い始めた。

「…起こしてしまって悪かったね。」

部屋に戻ったクジャは罰が悪そうに謝ると、カップの破片を持ってきたばかりの箒で掻き集めた。

「夢、いいところだったんだ。でも平気。クジャ様もそういうことするのね。」

紅茶を拭き終わってクジャの方を向けば、彼も散らばった破片をちりとりに集め終えたところだった。

「言うようになったものだよ。城にいた頃からは考えられないね。それで、どんな夢だったんだい?」

仕返しとばかりに余計に一言を添えてから、クジャは尋ねる。

「…少し懐かしい夢、かな。」

私は答えた。

「…私、クジャのこと好きよ。」

自分でも何を思ったのかはわからないが、気づけば目覚める前に伝えきれなかった言葉がさらりと喉を通り抜けていた。夢の中では声道が詰まってしまったかのように、声にできなかったというのに。

「それはありがたく受け取っておくとして、随分と唐突じゃないか。夢のせい、ってところかい?」
「かもね。」
「さぞ、甘い夢だったんだろうね。相手次第では妬きもちを妬いてしまいそうだよ。」

彼は口では妬きもちだなんて言うが、さほど思っていないことは見てとれた。本当にそう思っている時の彼は、けして自己申告などしない。もっと回りくどく、嫌味ったらしく、じわじわと追い詰めるのだ。

「…たかが夢じゃない。」

私は、彼の気のない言い回しをあしらった。
しかし、クジャはどこから甘い夢に繋げたのだろうか。私は懐かしい夢としか言ってないはずだ。
そんなことをぼんやりと考えながら、安易に彼の問いかけに応えたのが間違いだった。

「知ってるかい?夢の中でも君は僕のものなんだ。」
「…知ってる。実際にそうだったから。」

ここまでのやりとりが彼の誘導だったことに気づくのは、この直後だった。

「安心したよ。君の寝言を聞けば、どんな夢かはだいたい想像がつく。」

-寝言…?

「ちょっと待って。…鎌かけたの?」
「さぁ?それよりも、夢でのセックスは気持ちよかったかい?現実では物足りなくなってしまったかな。」

クジャは悪戯っぽく笑みを浮かべた。

「信じられない……」
「でもね、#name#。夢の中の僕ばかり、ずるいと思うんだ。」

ソファで一人、喘ぎを漏らすところを彼が見ていたと想像すると頭がくらくらするが、この物言いに含みがあることくらいは理解ができた。

「…もしかして、何か言いたいことある?」
「言いたいことじゃないよ。要望だ。」

恐る恐る尋ねれば、潔い返答が返ってきた。

「…なんていうか、私の想像、間違ってないのかも。」
「それなら話が早いね。」

クジャは私が後退りすることなどお構いなく、私の身体を捕まえた。彼に包み込まれた身体は、背後のソファへと取り籠められ、寄り添うようにして私を見下ろす彼の涼やかで甘美な寵愛の視線をたっぷりと受けていた。

-現実の僕のことも甘い声で呼んでほしいんだ。

彼の口から零れ落ちる言葉は、私の中の何かを揺るがすように魅惑的に体内で鳴り響いていた。
私にとっての彼は、昔も今も変わりないのだ。



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以下、ちょっとした裏話兼、貧相な文章。

#name#「クジャ様…」
クジャ様「…?(振り返ってみるけど寝てる)」
#name#「…ん」
(クジャ様、近づいてみる。)
#name#「あんっ、やぁっ♡(モゾモゾ)」
クジャ様「はぁ、いったいどんな夢をみてるんだか。(含み)」
(クジャ様、とりあえず太腿に手を伸ばす。)
#name#「あっ、クジャさまぁ♡」
(クジャ様、下着を触ってみる。)
クジャ様「(濡れてる。)」
(クジャ様、本格的に悪戯を始める。)
#name#「クジャさまっ、またきちゃう……!(ビクッ)」
クジャ様「(また、…ねぇ。)」
(クジャ様、不満気ながらしばらく観察する。)
クジャ様「(そろそろ、起きてもらおうかな。)」
ガッシャーン(動いたら腰布がティーポットに引っかかった。)
クジャ様「………。」
#name#「すごい有様…」


何が言いたかったかというと、クジャは悪戯した挙句ティーセットをひっくり返したわけです。